2005年05月14日

スティービー・ワンダーの若き日々 3話

 インナーヴィジョンズの完成直後、スティービーは大きな交通事故に遭って瀕死の重傷を負う。即死しなかったのが奇跡と言えるほどの大きな事故だったらしい。重度の脳挫傷を被ったスティービーは、約1週間に渡って意識不明のまま生死の間を彷徨った。

 思わず、運命の女神の悪戯とでもいいたくなるようなアクシデント。もし、あの時、あのままスティービーが逝ってしまっていたら、今日のミュージック・シーンは全く違うものになっていただろうし、Jimi Hendrixが、後せめて「三年」音楽活動を続けることができたなら、やはり、今日の音楽は全く違うものになっていただろう。とにかくも、スティービーは我々のところへ還ってきた。

 事故後のインタビューで彼は語っている。
「最初は神を恨んだ、しかし、その後、神に感謝するようになった。そして、自分が何を為すべきか理解した」

 スティービーの「野心」は、この時、おそらく「使命感」のようなものへと変化したように思われてならない。


 生死の間を彷徨う体験を持った者は、誰しも同じことを感じるらしい。それは、一言で言えば、命の軽さだ。命は羽のように軽くて儚い。それは運命の悪戯で、すぐにでも吹き飛んでしまうような軽さだ。その軽さを思い知った後、人は「拾った命を何に使うか」を真剣に考えるものなのだ。

「あの子は、自分の力で世界を変えようとして焦っていました。」
スティービーの母、ルラ・ハーダウェイは、当時を振り返ってそう語っている。

世界を変える……
どのように……かつてキング牧師が説いたように
どうやって……かつてビートルズがそうしたように

 全盛期にあったビートルズのジョン・レノンが「ビートルズはキリストよりもポピュラーだ」という発言をして、世界中の『良識』ある人々から猛烈な大顰蹙を買ったことがあった。後になってジョンは、前言を撤回する言い訳めいたコメントを発表するはめになる。

 スティービーは、ビートルズよりもポピュラーになりたかった。音楽ビジネスの世界で、ビートルズをも上回るような成功を修めたいという「野心」にかられていた。
「ビートルズの『サージェント・ペパーズ』に匹敵するようなアルバムが、ブラック・ミュージックでも可能だということを世界に示したかった」
 スティービーは、彼自身の言葉でこのように語っている。

 かつての彼は、差別に対する怒りを、ストレートな攻撃として聴衆に叩きつけていた。彼のファンク・ビートはまるでブラック・パンサーが構えるショットガンのようだった。センチメンタルなラブソングは、刃物を隠す偽装だった。それは、白人社会に対するビジネス的な「媚び」であると同時に、白人社会への攻撃でもあった。
 しかし、攻撃では世界を変えることはできない。交通事故の後の彼は「世界」を変えるという使命に駆られていた。そして、自分にはそれができる、という驕りを持っていた。

 悪夢のような交通事故の後、やがて、Aisha が誕生し、自身の内から溢れるような愛に自ら溺れるような幸せな日々がやってきた。

 様々な幸運と不運が綴れ織るような運命の中で、怒りと野心はやがて使命感と驕りへとかわり、そして最後には、ごく素朴でありふれた愛へと落ち着くことになったのではないだろうか。

スティービーは、次なる大作キー・オブ・ライフの制作に没頭した。

(続く)

この記事へのコメント
スティービーまさにタイムリーですね、次のアルバムにアイシャ(曲)に赤ちゃん、の泣き声で参加していた、アイシャ*混乱しそうな、文章で済みません。
もうアイシャ29歳になってて、アーティストで、参加してるのですね、時の流れるのは早いですね。
次のキーオブライフ、期待してます(個人的には
1番好きな作品です。
Posted by jb大好き at 2005年05月14日 18:15
Aisha は "How Will I Know" という曲でStevieとデュエットしてるようです。
>次のキーオブライフ、期待してます(個人的には1番好きな作品です。

120%同意!(笑
Posted by BustaCat at 2005年05月14日 19:17
BustaCat at さん
度々済みません、キーオブライフではアズが好きでした、スタッフがカバーした、アズも中々ですね。
Posted by jb大好き at 2005年05月15日 00:57
アズ AS は私も大好きです。
昔バンドでやってたし、バック・コーラスの歌詞がなかなか覚えられなかったし(笑
Posted by BustaCat at 2005年05月16日 01:36
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