2005年09月17日

AROUND THE WORLD IN A DAY

atwid.jpg

先進性よりも完成度の高さを云うべきアルバムだと思う。
時代を先駆けるというよりは、時代の中心を正確に突いている。他のアーティストが、まだ時代の中心がどこにあるのかを測りかねている中で、このアルバムはあきらかに突出していた。
今、現在の時点で「80年代的」と呼ばれるサウンドに、このアルバムは既にとどめをさしている。その意味で、このアルバムと、翌年にリリースされたピーター・ガブリエルの『SO』を並べて置きたい。
今、この2枚を聴き返してみると、80年代半ばにして、80年代サウンドは終わっていたかもしれないと思わせるものがある。
この2枚のアルバムに共通しているのは、時代の流行を貪欲に取り込み、実験的なフレイバーを漂わせながら、実は、むしろ完成度にこだわったゴージャスなPOPアルバムであること。

印象的なのは色彩感。前作がダークな紫なら、このアルバムは眩しいほどの空色から始まる。ジャケット・イラストが、このアルバムの色彩感をほとんどそのまま現しているように感じられる。CDではこのジャケット・アートが楽しめないのが残念だ。
サウンドの重心がとても高めに設定されており、だからヘヴィーなFUNKチューンもアルバムの色彩感の中に溶け込んで、統一感を損ねることがない。ここでのFUNKは、JBというよりはスライを思わせる。
とにかく音色だけでも楽しんでしまえるアルバムだ。カラフルな音色には眩暈させ感じさせるものがある。しかし、ここでの色彩感は、油絵のそれではなく水彩画のそれに近い。だから、どこなく透明で薄い印象がある。Condition Of The Heartの、まるでECMレーベルのような深くてウェットなリバーブがそれを象徴しているかもしれない。

このアルバムを語るときに、サージェント・ペパーズがよく引き合いに出されるが、それはおそらく、単なる味付け〜フレイバーに過ぎない。確かに、"Paisley Park"や"Rasberry Beret"といったキュート曲たちはサージェント・ペパーズを思わせる。そして、ネオ-サイケデリックはこの時代のちょっとした流行でもあった。
しかし、このアルバムは、自信ありげなミュージシャンがよくやる「サージェント・ペパーズ狙い」とは違う。ここでのサウンドは仕組んだのではなくて、偶然に仕組まれ、それを丁寧に仕上げたものだったはずだ。80年代には、音楽を仕組むだけで成功し、すぐに忘れられてしまった連中がたくさんいた。この時代に急速に発展したテクノロジがそういった状況をつくった。そういった連中の音楽とこのプリンスをはっきりと区別しておきたい。

このアルバムのリリース当時、同時代のサウンド・クリエータ達にとっては、実にパクリネタの多い充実したアルバムであった。
先にも述べたとおり、このアルバムには時代の音が濃縮されており、だからこのアルバムをパクれば、時代の音を手っ取り早く手に入れることができたのだ。
例えば、タイトル曲のエスニック風味は、当時は相当なインパクトがあったし、わずか3分にも満たない Tamborine は、当時のHIP-HOPよりもはるかにHIPだった。

このアルバムでは、プリンスの(セルフ)プロデュース能力を高く評価しなくてはならない。前作でのマーケッターとしての才能と併せて、ほとんど才能の押し売り状態だ。
何度も述べているように、時代を正確になぞりながら、自身の持ち味と肉体性の類のもの(要するにFUNK)までを巧みに配置する力量には驚かされる。
ただし、前作と並行して制作され、タイミングを計ってリリースされたというこのアルバムの実際のセールスは、おそらく彼の「読み」以下であったろうと思われる。その計算違いは、彼が、少しばかり正直に、あるいは率直になり過ぎた結果かもしれない。

タイトル曲で、奇数・偶数小節のビートをエンディング近くで裏返してしまうという技が、いかにもプリンスらしい。
Temptation のやり過ぎもいかにも彼だ。ここまで欲張る必要はなかったのではないか、と思わせる。Purple Rain でプリンスを知った子供たちは、この曲を最後まで聴かないだろう。Purple Rain に感動した子供たちは、ジミ・ヘンドリックスのカオスとフリー・ジャズのカオスを繋いでみせる、などという試みには興味がなかったろう。


個人的には、最初に最も強いインパクトを受けたプリンスのアルバムだった。これを聴いた後、自分は殿下の僕と化した。とにかく、完全にまいってしまった。
"AMERICA"がジミの香りを漂わせていたことも、自分には大きかったと思う。
だから、このアルバムには、比較的贔屓した評価をいつも下してしまう。
これは、今にして感じることなのだが、このアルバムでは、プリンスのいかにもプリンスらしい「毒」がまだ回っていない。毒が完全に回るのには、やはり"Parade"を待たねばならない。だから、プリンスの毒をもって彼に入れ込んでいるファンたちには、このアルバムは物足りないのかもしれない…

そういうわけで、このアルバムの個人的なベスト・トラックは Pop Life だ。
……あれ?
posted by BustaCat at 00:21| Comment(6) | TrackBack(1) | プリンス Prince | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
自分もこのアルバム大好きでした。LP買ったらシールが付いてて、意味も無くギターに貼り付けてました。「1999」の頃からプリンス別格だなって感じてましたよ。「Purple Rain」の後でも期待を裏切らないという所が凄かったな。
あと自分の場合はあの頃出た中ではスタイル・カウンシルの「Our Favourite Shop」…ん〜あの頃が懐かしい。
Posted by mars at 2005年09月18日 00:15
marsさん。コメントどうもです。
スタイル・カウンシル!欠落してました。
というかこの時代、シャワーを浴びるようにたくさんの音楽を聴いていたので、結構欠落しているのが多いです。
今は、浴びるようには音楽聴けなくなっちゃいました。
いちばん気分のいいときに、選り抜きの一枚を…って感じです。
Posted by BustaCat at 2005年09月18日 01:02
このアルバムは『Purple Rain』と同じセッションで録音されていて、しかもどちらに入れるか制作当時は特に決めて録音したわけではなく、後から割り振りをしたという話を聞いた記憶があります。
『Purple Rain Part.2』を作らなかった(結果的には1990年に作られるわけですが・・・)プリンスの先見の明はさすが数々の偉人達の自伝を読みあさっているというだけあると思いますし、自分はむしろこのアルバムを出したことに壮大な戦略を感じました。(出た当時は全くそんなことは思いもしなかったのですけれど)

プリンスファンクラブというのが当時ありまして、会報が年に4回だったか来るものだったと思うのですが、それに姉が入っていまして、その中の連載でプリンスのブートレッグを異常に集めている人のものがありました。
しかし、ある時を境にその人はプリンスから足を洗いました。
理由は「Temptation」の後半のピアノを聴いたときのような衝撃を今の作品から感じることが出来なくなったからというようなものだったと記憶しています。
Posted by PRINCE_CONTROL at 2005年09月18日 02:26
いつもコメントありがとうございます。

私の本業の方で、VCやマーケティング・コンサルの方とよく話をします。
判をついたように言われるのは
自分達の製品の持つ "Best-One" と "Only-One" を明示せよ。
ということです。じゃないと売れないよ!
…正直これにはもうウンザリしています。

こじつけますが、
プリンスの音楽は『総合的』に間違いなく"Only-One"です。
これはファンならどなたでも同意だと思います。
でも個々の音楽的ファクターについていうと
必ずしも "Best-One" でも"Only-One"でもないように思います。
とは言え、それら(個々のファクター)は極めて上質であることは
いうまでもありませんん。

プリンスは常に戦略的です。
そして、常にマーケティングの問題に対して
かなり真剣に(深刻に?)取り組んできたと思います。

しかし、プリンスのファンがプリンスに惹かれるのは、
個々のファクターに惹かれているわけではないと思います。
『総合的』"Only-One"なプリンスを愛しているわけですよね。

マニアは得てして、作品をファクタ分析して、
それに入れ込んでしまいがちです。

"Temptation" の後半部は確かにカッコイイです。
でも、アノ手のスタイルの本職には、かなわんでしょ。
"Temptation"は、これがプリンスの世界の中にすっぽりと包まれて
いるからこそ価値があると思うのです。
それがプリンスを"Only-One"にしています。
おいそれとはパクれないネタだし……

侮れない戦略家で憎めない器用貧乏、
愛すべき天才…プリンス。
Posted by BustaCat at 2005年09月18日 19:22
やっとこのエントリー拝見できましたー!
トラックバックさせて頂きました。
「Temptation」をはじめて聴いた時、やばいやばい、こんなのあり?って、正直最後まで聴けませんでした。僕も当時は、「Purple Rain」の子供達だったんです。それも、時間が解決しました。80年代のピコピコミュージックに冒されてた時期でもあるので、そのバリアを取るのに時間が掛かったんです。
Posted by lenmac at 2005年09月19日 08:18
lenmac さん。
TB、コメントありがとうございます。
やっと書けました。このエントリ(笑
正直言って、記事書くために腰を据えて聴きなおすと……揺れてしまうんでよね、自分の考えが。だからなかなか書けない。
いつまでたっても、揺さぶってくれるから、この人は飽きません。
Posted by BustaCat at 2005年09月19日 23:23
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック

AROUND THE WORLD IN A DAY/PRINCE(CD ALBUM)
Excerpt: 1950年代〜1960年代に隆盛を極め、1970年代に政治的なメッセージを携えたR&Bやソウルなどのブラックミュージックは、すでに存在しないのだろうか?一説によると、それら栄光的なブラックミュージック..
Weblog: ぶっとんだ音像字
Tracked: 2005-09-19 08:00
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。