2008年04月13日

Planet Earth

Planet Earth

1. Planet Earth
2. Guitar
3. Somewhere Here On Earth
4. The One U Wanna C
5. Future Baby Mama
6. Mr. Goodnight
7. All The Midnights In The World
8. Chelsea Rodgers
9. Lion Of Judah
10. Resolution

遅ればせながらのレビューです。
この4月でPrinceはデビュー30周年なのだそうで、ちょうどいいタイミングかもしれません。

いつになくレビューしにくいアルバムです。もっともPrinceの場合、レビューしやすい作品などあり得ないかもしれません。

1曲目のタイトルトラックをリビングで聴いていたら、家族から「これPrince?!・・・キング・クリムゾンみたい」という驚きの声があがりました。キング・クリムゾンというのは極端かもしれませんが、いいたいことはよくわかります。私は最初に聴いたときピンク・フロイドを連想しました。似たようなものか・・・。
60年代末のUKプログレッシブロックを思わせる大袈裟な構成とサウンド、内実はシンプルなサウンド。やはりどちらかというとピンクフロイドでしょう。強いていうなら、Electric Lady Landの後半を思わせると言えなくもありません。

このタイトルトラックが示すように、アルバム全体としてシンプルでストレートなロックを感じさせます。サウンドもナチュラルなバンドサウンドが多くて、とにかく全体に「シンプル」、「ストレート」、「ナチュラル」であることには、ちょっとした驚きも感じます。
ロックが前面に出てFUNKはほとんどあとかたもなく後退。ロックがこれだけストレートに前面に出るというのは『Purple Rain』時代以来かもしれません。
途中、『Chaos And Disorder』なんてのもありましたが、アレは状況的に例外でしょう。
『Purple Rain』時代のPrinceのロックというのは、いわば異型のBLACK ROCKであって、間違ってもシンプルでもストレートでもありませんでした。付言すると『Purple Rain』だけが例外的にシンプルでストレートでした。あの時代のPrinceのすぐ背後にFUNKの匂いを嗅ぎ付けるのは容易だったし、バンドの形式をとっていたとはいえ、実際にはバンドサウンドとは程遠いBOT-BEAT基調のメカニックなサウンドだったわけです。
それに引き換え今回のROCKフレイバーは実にナチュラルです。それは聴いていて呆気にとられるほどです。いくら聴きこんでも屈託の類のものを見つけることができなくて、結局、これは本気で『直球』なのだと受け止めるしかありません。
Princeがベタな直球を投げるわけですから、完成度の高さはもう必然です。「ロックはこうやれ」「ロックンロールはこうやれ」「ギターはこう弾け」という感じの教科書的な内容と言ったら言いすぎでしょうか。むしろベテランの貫禄を指摘すべきなのでしょうか?

もう一つの驚きははFUNKの後退と、その代わりのようにして"8. Chelsea Rodgers"という典型的な70年代末 DISCO スタイルの曲をもってきたことです。かつてJimi Hendrixへのトリビュートアルバム『Power Of Soul』でスローブルーズをやったことがありましたが、今回はその時に匹敵する驚きです。『Power Of Soul』に収められた"Purple House"は、どちらかと言えば嬉しい驚きであったのですが、今回の驚きは複雑な心境の驚きとなりました。
そもそも、70年代末 DISCO スタイルというのは、Prince がまさにデビューした時代に全盛を極めていた、というより猛威を振るっていたスタイルです。そして悪いことに、このスタイルはFUNKを失速させ、James Brownを葬り、さらには、ブラックミュージック全体を停滞させた、という具合に相当罪深いスタイルです。
「ディスコは60年代に多くの人たちが一生懸命つくりあげてきた(黒人)音楽の基礎をぶち壊してしまった」というのはJames Brownの言葉です。
さらに『リズム&ブルースの死』の著者であるネルソン・ジョージによれば、リズム&ブルースに死をもたらせたのは、まさにこのディスコなのです。

元々ディスコというのは、70年代初期に、Cool&The GangだとかOhio Playersといった連中ががやっていた、ダンサブルでちょっと都会的なFUNKの一派でした。これらはダンサブルとはいっても、ちゃんと伝統を踏まえた心地よいグルーブを持っていましたし、その意味でFUNKの一派と呼んでもさほどの抵抗はないわけです。それが、ミュンヘン発のジョルジオ・モロダーがプロデュースしたドナ・サマーに代表される、当時ユーロディスコと呼ばれたいたスタイルが大ヒットするに至って事態は最悪となります。最早グルーブなど微塵もない、年寄りでも子供でもリズム音痴でも踊れる安直で粗製乱造状態の音楽が世界中を制覇してしまいます。ブラックミュージックは、なんのためにグルーブに磨きをかけ、洗練させてきたのか・・・。全てが水泡に帰してしまうようなものでした。ネルソン・ジョージの言葉を借りれば、「メトロノームのようなビート」で、「ディスコを非ファンク化し、心のこもらない繰り返しだけの白痴的な歌詞の音楽」とばかりに相当手厳しいです。しかもこのディスコスタイルは、その後テクノと結びついてハウスとなり今日もまだ活きています。今、現在のJ-POPのかなりの部分を占めるのも、この系統の末裔のスタイルであることを思えば、これは大衆音楽の王道であるとしかいいようがありません。

先にも述べた通り、PrinceはこうしたFUNK衰退期にデビューしました。そして異型のBLACK ROCKというスタイルを通して、FUNKを再び蘇らせたという意味において、P-FUNKの継承者と呼ばれたわけです。私が勝手にそう呼んだんじゃなくて、みんながそう呼んでいたんですよ(笑。ネルソン・ジョージは、そうした意味で、BLACK MUSIC伝統の中でのPrinceの位置づけをレトロ・ヌーボーと名づけています。新しい伝統の継承者、新しいスタイルでの伝統の復古というわけです。そしてPrinceの30年のキャリアの中でディスコスタイルを使ったことは一度たりともないはずです。というかやるわけがないんです。

そのPrinceがデビュー30年を迎えようという時期に、彼にディスコをやられたら驚かないわけにはいかない、というのがわかってもらえたでしょうか。

しかし、ここで落ち着いてよく考えてみると、あのディスコ時代にもFUNKは衰退したとはいえ消滅したわではありませんでした。例えば、Earth, Wind & Fireは、James Brownとならんでディスコの犠牲者の代表だと思うのですが、当時EW&Fがやっていたディスコナンバーを今聴き返してみると、ディスコスタイルに陥りながらも、必死でEW&Fらしさやグルーブを守ろうとしているのがよくわかるのです。それは時代に押し流されるのを拒もうとする、涙ぐましい努力であったかもしれません。あるいはせめてもの抵抗だったかもしれません。だからEW&Fのディスコナンバーである"Boogie Wonder Land"や"September"は、ディスコであってもグルーブを失っていないのです。

そこで"Chelsea Rodgers"を改めて聴いてみます。これは粗製乱造の大量生産ディスコではなく、それにせめてもの抵抗を示したEW&Fのディスコサウンドを思わせる曲です。これをFUNKと呼ぶことは決してできませんが、少なくともグルーブはあります。いわば70年代末に、BLACK MUSICの伝統の中で、本来あるべき姿であったディスコスタイルを、30年経った今やっているということになります。Princeの意図は私には計りかねます。が、とにかく私の感想は微妙で複雑です。

"Chelsea Rodgers"の話ばかりしてしまったので他の曲の話をしましょう。
1. Planet Earth は、UKを感じさせる重厚な雰囲気ですが、アルバム全体は、ポップでストレートなロック、ないしロックンロールです。Lisa&Wendyなんていう名前も見えますが、これはイベント的なものでしょう。私は『3121』を聴くときに"Fury"を必ず飛ばして聴いていたのですが、そのバチがあったのか、今回はアルバム全体がFury化してしまいました(笑
ポップンロールがPrinceのたくさんある顔の一つであることは確かであるし、それが看板の一つであることも認めます。Purple Rain時代ならともかくとして、今、ポップンロールに乗れといわれても私には正直厳しいです。
このアルバムは、若い世代向けのものである、といういかにもありがちな説も考えましたが、これはどうでしょう・・・。

さて、アルバム全体にギターがこれまでになく目立っていて印象に残ります。そのものずばりの"2. Guitar"は言うまでもないのですが、1. Planet Earth後半のギターソロには、いい意味で唸りました。Princeのギターソロはたくさんありましたが、Planet Earthのギターソロは、これまでとはかなり趣が異なります。なんというか、正統派の硬派レガシースタイルのギターです。ペダルの使い方がツボにはまっていて絶品です。ペダル半開きを巧みに使ったサウンドや、最後部でのアーミングは、これまでになくJimi Hendrixスタイルで、しかも絶品です。引っ掻くような強いピッキングでアタッキーなサウンドもこれまでのPrinceのギターでは記憶がありません。
シンプルでストレートはありますが、全キャリアの中で、もしかしたらベストのギターソロかもしれません。ここまで弾けてるPrinceに覚えがないんです。

個人的には、
5. Future Baby Mama 6. Mr. Goodnight 正直この並びが『Musicology』風味で一番好きです。特に"Future Baby Mama"は、私を安心させてくれます。
9. Lion Of Judah も『Musicology』の"Sinamon Girl"を思わせていいですね。要するに私、やっぱり『Musicology』がすごく好きなんですね(笑

クオリティは高いし、完成度も高い。ベタでストレートなネタを使っても出来上がりはきちんとPrinceクオリティになっています。そういう意味では高く評価していいアルバムかもしれません。でも、長年Princeを聴いてきた身としては肩透かしの感は否めません。別にポップンロールのPrinceが悪いといっているのではありません、あくまでも個人的な好みを呟いたと思ってください。

posted by BustaCat at 01:58| Comment(4) | TrackBack(0) | プリンス Prince | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
前からコメントしようか迷っていたんですけど・・・。
なんだか、とっても苦しそうに書いてらっしゃるような気がして^^;

Black音楽の変遷は読んでいて、頷けることしかりです。

>『3121』を聴くときに"Fury"を必ず飛ばして聴いていたのですが、そのバチがあったのか、今回はアルバム全体がFury化してしまいました(笑

私も"Fury"キライなんですよ〜。アルバム全体がFury化って・・・・・ダメだ・・・私は買えない、聴けない(笑)
Posted by オクターブの共鳴音 at 2008年04月26日 13:40
オクターブさん。いつもどうもです。
>とっても苦しそうに書いてらっしゃるような
正直言って苦しいです(笑
記事に書いた通り、ギターソロは抜群に「いい」ので、その話だけでお茶を濁そうかとも思ったのですが、根が正直なので(笑)だらだらといろんなこと書いちゃいました。

完成度は非常に高いんですよ。わかりやすくて懐が深い・・・という意味では高く評価してもいいアルバムなのかもしれません。実際。音楽誌などでの批評家の評価は高かったようですし・・・。
どこを評価してるのか、私にはよくわからないんだけど・・・

ラジカルであり続けるというのは、言うほど容易いことではないですね。それが例えPrinceでも・・・
Posted by BustaCat at 2008年04月27日 02:03
発売してからまだ1年が経っていませんが、"Planet Earth"は今年生誕50年、デビュー30周年を迎える節目の年とも言えるプリンスの、今年出るアルバムのための軽い前口上のようなものなのではないでしょうか?

また内容やリリースにまつわるエピソードなどもとても戦略的なものが感じられました。

リリースに関してはやはりイギリスの新聞の付録に無料で付けたことでしょう。しかも一般発売の前に配ってしまって、イギリスではソニーが配給を止めてしまったというおまけ付きでした。
しかし、この配布のおかげなのか、ロンドン21夜ライブは完売。
レコード会社にはお金が入らず、しかし、自分にはお金が入るという、Musicologyツアーの時といい、これで10年以上前から撒いていた種がようやく収穫出来たのだと思います。

またアルバム的には・・・
映画『不都合な真実』に代表される地球温暖化警鐘などの運動の高まりに、便乗というと言い方が悪いかもしれませんが、少なからずそこからインスピレーションを受けて作られたと思われるタイトル曲、
携帯電話の音楽配信第1号(だったと思います)のファーストシングル"Guitar"、
以前、"Gold Experience"期の頃に楽曲提供したヴェルサーチのファッションショーの第二弾とも思えるようなプロモビデオが印象的な"Chelsea Rodgers"(このファッションショーが撮影のきっかけになったようですが、どうでしょうか?
http://jp.reuters.com/article/entertainmentNews/idJPJAPAN-27985620070920)、
そして、The Revolutionの再結成を示唆するようなWendy&Lisaの参加など。

この"Planet Earth"では何とも着々と色々な試みを実行していたように思えます。

全ては今年のニュー・アルバムの為だと私は思っています。

ちなみにリリース当時、こんな日記を書いていました。


「Princeの新作、ようやく聴くことが出来ました!
まずは歌詞を読まないことには何とも言えませんが、個人的には"Mr. Goodnight"のチロリンという音がとても良かったです。

今日(昨日だった、すでに)は帰り道、偶然、同名タイトルのアルバムを発見して購入。
デニス・チェンバースの2005年の作品です。
タイトル曲"Planet Earth"について、Princeの方はどこかマイク・オールドフィールドの"Tubular Bells"を思い浮かべてしまいましたが、このSun Ra作曲のデニス・チェンバースの方のギターソロだけを比べると、デニス・チェンバースに軍配が上がるかと思います。凄まじいです。

それにしてもPrinceのニュー・アルバムはとても洗練されている。そして、今までになく軽い。
この軽さは、特にドラムの軽さは何だろう?
同名タイトルのライブ盤が出て完結するような作りのような気もしています。」

また違う日には、

「アルバム"3121"の最終曲"Get On The Boat"に対して、以下のように当時書いていました。

「この曲が持つ力強さによって、リリースされてからのこの1年間、僕にとってこの曲はファイト・ソングでありました。
何かとの闘いに勝つために、励みにするために、ずっと聴いていた気がします。
シーラEとの久しぶりのレコーディング。まるで彼女の為にこしらえたラテンビート調のパワー・ファンク。
ハリケーン・カトリーナ以後のニュー・オリンズの姿が少なからずプリンスの頭にあったのか、タイトルや歌詞からは、どうしてもノアの方舟を連想せずにはいられない。
テロや戦争など終わらない憎しみが渦巻く世界において、僕らが出来ることは舟に乗ってこの世界を脱出し、新天地に向かうことだけなのか?とも思った。 」

プリンスはこれまで決してネガティブな思考を抱かなかったし、表現しなかったと思います(怒りはあったけれど)。
ただ、"Get On The Boat"といい、この"Planet Earth"の最終曲"Resolution"の奇妙なほどに軽快で明るい曲調に乗せられた、一向に状況を改善しようとしない人々に対する疑問といい、どこか諦念を感じさせる。

閑話休題

アルバム"Grafitti Bridge"に入っている"Joy In Repetition"には "Soul Psychodelicide"をプレイしているバンドが登場していたけれど、その描写のように曲の中に違う曲が描かれるものとして、アルバム"Planet Earth"では"Mr. Goodnight"の中に"Somewhere Here On Earth"が登場していた。

"Chelsea Rodgers"はアルバム"Crystal Ball"収録の"Make Your Mama Happy"をアップデートさせたみたいにも思える。

"Lion Of Judah"の最後に出てくる二人はプリンスとキリストでしょうか?

http://www.ricoart.com/ras.htm

http://www5f.biglobe.ne.jp/~letsrock/What_Rasta.html

歌詞を読むうちに知らない世界がどんどん広がって行くような気がしています。

来年はプリンスの生誕50周年、そしてデビュー30周年の年。
プリンスにとってはきっとこの"Planet Earth"はすでに過去のものであり、来年に向けた新たなアルバム構想が始まっているのではないでしょうか?」

と、長文で失礼致しました。

今年はシングルリリースされた"F.U.N.K."を始め、"Prince And The Band"、"Turn Me Loose"と言ったファンクナンバーもりだくさんのアルバムが出てくれることを祈っています。
Posted by PRINCE_CONTROL at 2008年05月12日 00:25
PRINCE_CONTROLさん。
長いコメントありがとうございます。
いつになく苦しんで書いたレビューだったので、PRINCE_CONTROLさんのコメントをいただけて嬉しいです。
ちょっと時間がなくなっちゃたので、明日、改めてコメントします。とりあえず失礼します。
Posted by BustaCat at 2008年05月12日 01:51
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